クロアチアに、一人の料理人がいる。

名を「Outlaw Chef」という。かつてクロアチアの首相や大統領のために料理をしていた男が、自らその世界を離れ、今は行動障害を持つ若者たちに料理とアートを教えている。地元の新聞にレシピを連載し、料理学校では外部講師として教壇に立つ。

彼は自らの料理哲学を「Art Brut Cuisine」と呼ぶ。計算ではなく直感。対称ではなく非対称。環境にあるものだけで、火と煙と素材そのものから料理を作る。

その彼が、市蔵本舗の肥後守を手にしている。

海を越えた一本

市蔵本舗の肥後守とイチゴ
市蔵の肥後守でイチゴを切る。

市蔵本舗の肥後守が、クロアチアのイストリア地方に届いた。

彼はすでに別の小さな肥後守を持っていた。スロベニアの日本刃物専門店で手に入れた、刃渡り7cmほどのもの。それを気に入り、庭のハーブを摘むのに使っていたという。

そしてある日、インターネットで市蔵の肥後守の写真を見た。刃渡り10cm。少し大きい。

"The moment I saw the photo, I felt a strange 'click' in my mind, as if this knife was made for me."

「写真を見た瞬間、頭の中で不思議な『カチッ』という感覚があった。このナイフは自分のために作られたものだと感じた。」

彼はすぐに注文した。

Daily Companion — 日々の相棒

肥後守とハーブ
ハーブの上に置かれた肥後守。

箱から取り出した瞬間、笑顔になったという。

数日使ったあと、実用的な理由から刃の角度や開き具合を少し調整した。革ケースにはオリーブオイルとココナッツオイルを混ぜたものを何層か塗り、防水加工を施した。

それ以来、この肥後守は常に彼のポケットの中にある。寝るときはベッドサイドに置いている。

彼はこう表現する。

"This is my daily companion."

「これは、私の日々の相棒です。」

ポケットナイフで、料理を作る

肥後守と赤パプリカ
赤パプリカと肥後守。

朝、庭に出てハーブを摘む。コカ・コーラの瓶を開ける。濃いエスプレッソと一緒に、鳥のさえずりを聞きながら過ごす朝の時間。

そして、家族のために料理を作る。妻と息子たちのために。肥後守一本で。

肥後守で牛肉を切る
肥後守で牛肉を切る。

仕事では、料理教室で魚をさばき、肉を切り、野菜を刻む。一般的な包丁とは違う、独自の切り方を自然と身につけた。それは異なる方法だが、同じくらい効果的だと彼は言う。

ハーブ。イチゴ。パプリカ。肉。紐。紙。パッケージ。ペンキ缶。小さな木片。バーベキューの火起こし用の枝。

すべてを、この一本で。

50本のナイフを持つシェフが語る

市蔵本舗の革ケースとハーブ
市蔵本舗の革ケース。ハーブの上で。

Outlaw Chefは、プロとして50本以上のナイフを所有している。用途ごとに7つのセットに分けている。

その彼が、肥後守についてこう語る。

"Generally speaking, the Higonokami is a very simple and small pocket knife without even a locking mechanism. However, it is precisely this simplicity, the sharpness of the carbon steel, the ease of sharpening, and the durability of the blade that make this knife quick and reliable for everyday tasks. What may seem like a disadvantage at first glance is actually an advantage and a strength."

「一般的に見れば、肥後守はロック機構すらない、とてもシンプルで小さなポケットナイフです。しかし、まさにそのシンプルさ、炭素鋼の鋭さ、研ぎやすさ、刃の耐久性こそが、このナイフを日常の作業において素早く信頼できるものにしています。一見欠点に見えるものが、実は長所であり強みなのです。」

Art Brut Cuisineのメインナイフ

Outlaw Chefは「Art Brut Cuisine」の創始者でもある。非対称性、無意識から生まれる料理、直感的な食材へのアクセス、その場の環境からのみ料理を作ること。既成の枠にとらわれない、生(き)の料理表現。

彼は長い間、この料理哲学における「メインナイフ」を探してきたという。

そして、その答えが肥後守だった。

"The answer is exactly the Higonokami. Its slight asymmetry, its quick and direct access to ingredients, and its outstanding sharpness."

「その答えはまさに肥後守です。わずかな非対称性、食材への素早く直接的なアクセス、そして卓越した切れ味。」

Art Brut Cuisineのレシピノートと肥後守
手描きのレシピノート。「Art Brut」の署名、「Outlaw Chef」のサイン、そして市蔵の肥後守。

彼のレシピノートには、色鮮やかな手描きの料理画が並ぶ。その傍らには、いつも肥後守が置かれている。

瞬間は、永遠である

Outlaw Chefの料理
Art Brut Cuisineの一皿。オリーブオイルと焼き野菜。

彼はこう書いた。

"Every moment of using this knife — picking wild fennel in the morning dew, bathed in the orange light of the rising sun, filleting fish, cutting juicy strawberries from the garden, splitting pine bark by the sea to make fragrant smoke — all of these remind us that every moment of our lives is valuable, original, and never repeated."

「このナイフを使うすべての瞬間——朝露に濡れた野生のフェンネルを摘むとき、昇る太陽のオレンジ色の光を浴びながら、魚をさばくとき、庭で採れたジューシーなイチゴを切るとき、海辺の森で松の樹皮を裂いて香り高い煙を作るとき——それらすべてが、私たちの人生の一瞬一瞬が価値があり、オリジナルで、二度と繰り返されないものであることを思い出させてくれます。」

"It happens only once and never returns. But from those moments, the magic of life is woven, and even though they pass, they are eternal."

「それは一度きりで二度と戻らない。しかし、その瞬間から人生の魔法は織り上げられ、たとえ過ぎ去っても、それらは永遠なのです。」

あとがき

Outlaw Chef

市蔵本舗の肥後守を選んでくれたこと。

毎日使い続けてくれていること。

そして、私たちがこの小さな刃物に込めた想い——余計なものを削ぎ落とし、本質だけを残すということ——を、海の向こうで、自分の言葉で見つけてくれたこと。

Outlaw Chefが語ってくれた言葉の中に、市蔵本舗が大切にしている精神がそのまま映っていました。

一本のナイフが、一人の人間の暮らしに溶け込み、その人生の一部になる。道具にとって、これ以上の幸せはありません。

Outlaw Chef、ありがとうございます。

Outlaw Chefの世界は、Instagramでも見ることができます。
@monsieuroutlawchef

Outlaw Chefの写真・言葉はすべてご本人の許可を得て掲載しています。