和包丁の説明でよく見る「白紙」。どんな鋼なのかを、メーカーの公表値から短くまとめる。
白紙とは
白紙は、プロテリアル(旧・日立金属)が島根県安来市で作る「ヤスキハガネ」の刃物鋼だ。不純物を極力減らした、純粋な炭素鋼。研ぎやすく、鋭い刃がつく。市蔵の柳刃と出刃も、白紙で作られている。
「白い紙で包んで出荷したから白紙」と言われることが多いが、メーカーの資料では確かめられなかった。
「不純物が少ない」の中身
白紙の成分表に並ぶのは、炭素のほかにケイ素とマンガンだけで、クロムやタングステンは加えていない。そのうえで、リンは0.025%以下、硫黄は0.004%以下と、上限が低く決められている。同じ炭素量の「黄紙2号」は、リン0.030%以下、硫黄0.006%以下。「不純物が少ない」とは、具体的にはこの差のことだ。
安来と、たたらの鋼
安来は古くから、出雲と伯耆の鋼を積み出す港町だった。この和鋼の技術を残すために明治32年(1899年)に作られた会社が、今の安来工場の始まりだという。ただし、今の白紙はたたらで作るわけではない。近代の製鋼技術で成分を管理して作る鋼だ。
1号・2号・3号
違いは炭素の量だ。
- 1号:炭素 1.25〜1.35%
- 2号:炭素 1.05〜1.15%
- 3号:炭素 0.80〜0.90%
切れ味が要る道具には炭素の多いものを、粘り強さが要る道具には少ないものを選ぶ。品質の順位ではない。メーカーは1号の用途に鉋や剃刀を、3号の用途に包丁や鋸を挙げている。ただし用途の欄は代表例で、実際には2号や1号の包丁も数多く作られている。
焼入れ後の硬さは、どの号もHRC60以上とされている。これはメーカーの標準的な熱処理をしたときの素材の値だ。店頭の包丁に書かれた硬さは、作り手の熱処理によって変わる。
焼入れで性格が決まる
白紙は、熱処理のやり方で仕上がりが大きく変わる。メーカーのカタログも、どんなに良い鋼でも焼入れしだいで性能が大きく変わる、と書いている。白紙が「鍛冶屋の腕が出る鋼」と言われるのはこのためだ。
メーカーが示す白紙1号・2号の標準的な熱処理は、760〜800℃から水で焼き入れ、180〜220℃で焼き戻す、というものだ。カタログの白紙2号のグラフでは、水で焼き入れると硬さは温度によらずほぼ一定だが、油では温度が低いと大きく下がる。
片刃の包丁の作り
柳刃や出刃のような片刃の和包丁は、柔らかい鉄の「地金」に、硬い鋼の「刃金」を叩いてつけて作るのが伝統的だ。白紙は、この刃金に使われる。両刃の包丁では、白紙を芯にして両側を柔らかい金属ではさむ三層の作りもある。外側がステンレスなら側面は錆びにくいが、刃先には芯の白紙が出ているので、そこは錆びる。
青紙・銀三との違い
- 青紙:白紙にタングステンとクロムを加えた鋼。摩耗に強くなる
- 銀三:クロムを13〜14.5%含むステンレス。錆びにくい(銀三の記事)
「白紙がいちばん鋭い」といった言い方もよく見かけるが、同じ条件で比べた公開データは確認できなかった。どれが上ではなく、狙っている性質が違う。
白紙は錆びる
クロムを含まないので、水気が残ると錆びる。条件によっては10分ほどで錆びることもある(貝印)。使ったら洗って、すぐ拭いて、乾かす。しばらく使わないときは、薄く食用油を塗って、湿気の少ない場所にしまう。錆を見つけたら、早めに落とす。
白紙が向いている人
白紙の包丁は、手をかけるほど応えてくれる道具だ。自分で砥石を使って研ぎ、使うたびに拭くことを苦にしない人に向いている。刺身を引く、魚をおろすといった、刃先の鋭さがそのまま仕事に出る場面で力を発揮する。一方で、冷凍したものを切ったり、骨を叩いたり、刃をこじったりする使い方は避けたい。薄く硬い刃は、横からの力に弱いからだ。
海外での呼び名
メーカーの正式な英語表記は「Shirogami 1」「Shirogami 2」「Shirogami 3」だ。海外の店では「White #2」「White Paper Steel #2」などとも呼ばれ、「Shirogami #2 (White #2)」と並べる店が多い。号数まで書くと、1号・2号・3号の区別が伝わる。