包丁の鋼材を調べていると、「銀三」という名前に行き当たる。銀紙3号、銀三鋼、GIN3。呼び名はいくつもあるが、指しているのは同じ鋼だ。ステンレスなのか、炭素鋼なのか。どちらの顔も持つように見えるこの鋼を、メーカーの公表値をもとに整理してみる。

銀三とは

銀三は、株式会社プロテリアル(旧・日立金属)が製造する包丁用の鋼「GIN3」のことだ。プロテリアルの公式ページには、この鋼が「炭素鋼に匹敵する硬さと切れ味を持つステンレス鋼」と説明されている。用途として挙げられているのは、各種の包丁とはさみだ。

公表されている成分は、炭素が0.95〜1.10%、クロムが13.00〜14.50%、マンガンが0.60〜1.00%。焼入れ後の硬さはHRC59以上とされている。モリブデンやバナジウムなどの添加は、規格値としては示されていない。

ステンレスと炭素鋼のあいだ

鉄にクロムを約10.5%以上加えたものをステンレス鋼と呼ぶ。日本ステンレス協会によれば、ステンレスの表面は、厚さ数ナノメートルの不動態皮膜に覆われている。主にクロムと酸素が結びついた緻密な膜で、傷がついても、酸素があればすぐに再生される。銀三のクロムは13〜14.5%。ステンレスの条件を満たしている。

一方で、炭素の量は約1%と多い。白紙や青紙といった炭素鋼と、ほぼ同じ水準だ。炭素が多いほど鋼は硬くなり、鋭い刃先を保ちやすくなる。銀三は、炭素鋼に近い炭素量を持ちながら、クロムによって錆びにくくした鋼だと言える。「ステンレスと炭素鋼のあいだ」という言い方は、この成分の組み合わせから来ている。

白紙・青紙・VG10との位置関係

白紙は、不純物を抑えた単純な高炭素鋼で、研ぎやすさと鋭さが持ち味だ。ただしクロムを含まず、よく錆びる。青紙は、タングステンとクロムを加えて耐摩耗性を高めた鋼だが、クロムはわずかで、ステンレスではない。VG10は、クロムに加えてモリブデン・バナジウム・コバルトを加え、硬い炭化物によって刃持ちを高める設計のステンレス鋼だ。

これらに対して銀三は、添加元素をクロム中心にとどめたステンレスで、炭素鋼に近い性格の鋼として位置づけられている。

では、どれが優れているのか。この問いに、鋼材の名前だけで答えることはできない。切れ味や欠けにくさは、硬さだけでなく、刃の角度や厚み、熱処理によっても大きく変わる。同じ条件で各鋼材を比べた公開データも、今回は確認できなかった。だからここでは、順位をつけない。

錆びにくい。しかし、錆びる

銀三は、白紙や青紙に比べればはるかに錆びにくい。ただし、ステンレスは「錆びない鋼」ではなく、「錆びにくい鋼」だ。塩分や酸、水気が長く残れば、銀三でも錆びることがある。

手入れは、難しくない。使ったら早めに洗い、乾いた布で水気を拭き、自然に乾かす。酢や柑橘、トマト、塩漬けのもの、魚介を切ったあとは、とくに放置しないほうがいい。食洗機も避けたい。炭素鋼のように油を塗る必要はないが、「洗って、拭いて、乾かす」は欠かせない。

三層構造の銀三

銀三は、三層構造の包丁によく使われる。硬い銀三を芯にして、両側を柔らかい金属ではさむ作りだ。刃先には芯の銀三が現れる。武生特殊鋼材の資料によれば、三層鋼は、高級な鋼材と比較的安価な母材を組み合わせることで、切れ味と靭性を併せ持ち、コストパフォーマンスも高い。包丁の材料として最も多く使われているという。

外側の金属は、軟鉄とは限らない。柔らかいステンレスを使った包丁もある。外側が軟鉄なら、刃の側面は錆びる。外側までステンレスなら、側面も錆びにくい。包丁を選ぶときは、芯の鋼だけでなく、外側に何が使われているかも見ておきたい。

なお、片刃の和包丁には、三層ではなく二層の鋼がよく使われると、同じ資料にある。「銀三なら必ず三層」というわけではない。

向いている使い方、避けたい使い方

水気の多い食材を扱う道具として、銀三は使いやすい。三徳や牛刀、ペティのような万能の包丁、あるいは魚や野菜を扱う柳刃や薄刃などだ。白紙や青紙の切れ味の方向性を好みながら、錆の管理の負担を減らしたい人に向く鋼だと思う。

一方で、硬い刃には共通の注意がある。冷凍食品を切らない。骨や貝殻を叩かない。刃をこじったり、ねじったりしない。ガラスや石のまな板の上で使わない。これは銀三に限った話ではなく、刃の厚みや形によっても変わる。包丁に求める仕事に合わせて、刃の形から選ぶことが大切だ。

海外での呼び名

海外の包丁店では、「Ginsan」が最もよく通じる。ほかに「Silver #3」「Silver 3」「Ginsanko」「G3」「GIN3」などの表記も使われている。日本語の「銀紙3号」を直訳した呼び名は、あまり見かけない。

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