包丁の説明で見かけるようになった「HAP40」。もとは、金属を削る工具のために作られた鋼だ。どんな鋼なのかを、メーカーの公表資料から短くまとめる。
HAP40とは
HAP40は、プロテリアル(旧・日立金属)の「粉末ハイス」だ。ハイスは高速度工具鋼の略で、金属を削る工具(切削工具)に使われてきた鋼。メーカーの資料でも、HAP40の用途は「一般切削工具」とされている。同社がすすめる粉末ハイスの中で、HAP40は硬さ・粘り強さ・摩耗への強さの釣り合いがとれた、もっとも標準的な鋼種と位置づけられている。
市蔵の牛刀と三徳は、このHAP40を刃の芯にした「割込み」の作りだ。硬い鋼を芯にして、両側を柔らかい金属ではさむ。刃先は硬く、包丁全体は折れにくくなる。刃先には芯のHAP40が出ている。
粉末から作る
ふつうの鋼は、溶かした原料を固めた塊を、叩いたり延ばしたりして形にする。粉末ハイスは、一度溶かした鋼をいったん細かい粉にし、熱と圧力をかけて固めてから、同じように形にする。こうすると、金属の組織が緻密になる。
ハイスの中には、炭化物と呼ばれる硬い粒がたくさんある。粒が大きいと、そこから割れが始まりやすい。プロテリアルの技術情報によれば、粉末ハイスは炭化物の量は多いものの、粒が細かく均一に散らばっているため、割れにくい。
成分
メーカーの値では、炭素1.27〜1.37%に、クロム約4%、モリブデン約5%、タングステン約6%、バナジウム約3%、コバルト約8%を加えている。炭素のほかにはケイ素とマンガンしか含まない白紙とは、正反対の考え方の鋼だ。
熱処理がまるで違う
メーカーの標準では、1,120〜1,210℃から焼き入れ、560〜580℃で焼き戻す。焼入れ後の硬さはHRC64〜68。白紙の標準(760〜800℃から水で焼き入れ、180〜220℃で焼き戻し、HRC60以上)と比べると、温度も硬さも大きく違う。
ハイスは、高い温度で焼き戻すことで、かえって硬さが上がる。コバルトを多く含むものは、焼き戻しを3回以上くり返すことがすすめられている。なお、これは素材の標準値で、店頭の包丁の硬さは作り手の熱処理によって変わる。
白紙・銀三との違い
- 白紙:不純物を減らした、純粋な炭素鋼。研ぎやすく、鋭い刃がつく(白紙の記事)
- 銀三:クロムを13〜14.5%含むステンレス。錆びにくい(銀三の記事)
- HAP40:多くの元素を加えた粉末ハイス。硬く、摩耗に強い
「HAP40がいちばん長切れする」といった言い方も見かけるが、包丁として同じ条件で比べた公開データは確認できなかった。どれが上ではなく、狙っている性質が違う。
錆びにくいが、ステンレスではない
ステンレスと呼ぶには、クロムが約10.5%以上いる(銀三の記事)。HAP40のクロムは約4%なので、ステンレスではない。海外の店では「semi-stainless(半ステンレス)」と紹介されることもあるが、水気を残せば錆びる。使ったら洗って、すぐ拭いて、乾かす。
研ぎと欠け
摩耗に強いということは、砥石の上でも減りにくいということだ。切れ味は長く続くが、研ぐときには時間がかかる。また、硬い刃は横からの力に弱い。骨を叩く、冷凍したものを切る、刃をこじる、といった使い方は避けたい。
HAP40が向いている人
毎日たくさん切るので、研ぐ回数を減らしたい人に向いている。白紙のように研ぐたびに刃が応えてくれる楽しさよりも、研いだ切れ味が長く続くことを選ぶ鋼だ。一方で、研ぐときには時間をかける覚悟がいる。
海外での呼び名
メーカーの英語表記は「HAP™ 40」。海外の店では「HAP40」「HAP-40」と書かれ、「powdered high speed steel(粉末ハイス)」と添えられることが多い。日本のJIS規格では、粉末ハイスはSKH40に当たる。