夜中に見てはいけない写真がある。
真夜中のブルスケッタの写真は、まさにそれだった。
そんな写真を送ってくれたのは、クロアチア・イストリア地方の料理人、Outlaw Chef Damjan Bistričić(ダミヤン・ビストリチッチ)さん。イストリアのニュースサイト istarski.hr で、レシピの連載「Nedjeljna škola kuhanja(日曜料理教室)」を書いている。
Outlaw Chef から写真が届くたびに、困ったことになる。
焼き上がったパンの上で、チーズがとろけている。ブルーベリーが紫の果汁をにじませ、ミニトマトが赤く光っている。
画面越しなのに、香りまで届いてきそうだ。
そして、届いた写真の中には、いつもの肥後守も写っていた。
Oštrim kuhinjskim nožem.
Outlaw Chef のレシピを訳していると、毎回同じところで手が止まる。
「Oštrim kuhinjskim nožem」——鋭利な包丁で。
Outlaw Chef のレシピには、いつもこの一文が出てくる。
りんごを四角く整えるときも、パプリカを縦に割るときも、そして今回、チャバタを半分に切るときも。
レシピに書かれているのは、それだけだ。けれど、彼から届く写真を見れば、その「鋭利な包丁」が何なのかはすぐにわかる。
肥後守——。
まな板のそばに、当たり前のように置かれている一本。市蔵本舗の肥後守だ。
物思いの中から
彼の料理は、いつも物思いの中から生まれる。
前回は、前庭のテーブルでまどろんだ夢の中から。
今回、ひらめきを運んできたのは、夜空に浮かぶ大きな黄色い月だった。
夏の名残りのような、蒸し暑い夜の11時。
裏窓にもたれて庭を眺めていると、ヤシの木のすぐ上に、大きな月が浮かんでいた。淡い黄色に光るその形が、トウモロコシのチャバタに見えてきた。
月がパンに見えたなら、そのパンで何を作ろう。チャバタを割り、オリーブオイルを塗り、ベーコンとチーズ、ミニトマトをのせて、短く焼いたら——。
答えは、すぐに出た。
計算ではなく、遊び心から一皿を立ち上げる。それもまた、彼の「Art Brut Cuisine」のかたちだ。
窓を閉め、エアコンをつけ、背景音の代わりにドラマを流す。リビングとひと続きのキッチンへ向かい、オーブンを200℃に合わせる。
目標はひとつ。
真夜中ちょうどに、ブルスケッタをオーブンへ入れること。
「食べてはいけない時間」に
夜中に食べるのはよくない。多くの人が、そう言われて育ってきた。
けれど彼は、それを「タブーの一皿」と呼び、むしろ心を自由にするものだと考える。
オリーブオイルを塗ったチャバタの上に、細く切ったベーコン、ミニトマト、チーズ、ブルーベリーを重ねる。最後に、ローズマリーをひとつまみ。
オーブンの中で、チーズが溶けていく。焼き時間は、わずか数分。
ベーコンの塩気、ブルーベリーの甘酸っぱさ、ゴルゴンゾーラのほろ苦さ。
そこにオリーブオイルとローズマリーの香りが重なり、トウモロコシのチャバタの素朴な風味がすべてを受け止めた。
真夜中の手元に
ミニトマトを半分に。ブルーベリーも半分に。ベーコンを細く切り、二種類のチーズを小さな角に切る。
どれも、ほんの小さな仕事だ。
もちろん、肥後守が主役の料理、というわけではない。主役は月から生まれた一枚のパンであり、その上に重なっていく素材たちだ。
けれど、小さな粒を半分に切り、チーズを指先ほどの大きさに整えるとき、手の中に収まる小さな刃物は、ちょうどいい距離にある。
昼の庭でも、夜の台所でも。いつものように、そばにある一本として。
今回の料理の様子は、リール動画でもご覧いただけます。
元記事(クロアチア語):
istarski.hr「Složio sam bruschettu i točno u ponoć ubacio je u pećnicu」
Outlaw Chefの世界は、Instagramでも見ることができます。
@monsieuroutlawchef